来年新設されるクリエイティブイノベーション学科では、どのような講義や演習が行われるのだろうか? 9月14日に六本木の「デザイン・ラウンジ」で開催された学科ガイダンスにおいて、気になるそのカリキュラムの内容が紹介された。さらに、いままでの美術大学のあり方を問い直す新しい入試制度についても、あらためて説明があった。このふたつの話題を中心に、ガイダンスで伝えられたことをレポートしていこう。


新学科のカリキュラム①:ものづくりの現場に触れる1〜2年次

これまでの記事でも紹介してきたように、新設されるクリエイティブイノベーション学科では、ムサビが長年取り組んできた造形教育が育む「創造的思考力」を、社会のイノベーションや課題解決につなげることが目指されている。
美大の良さを残しながらも、社会やビジネスとの接点をさらに模索する。こうした課題に応えるため、新学科では従来なかった大胆なカリキュラムが用意されている。その特徴のひとつが、1〜2年次と3〜4年次では、教育内容や学びの環境が大きく異なることだ。

新学科の学生は、1〜2年次には郊外の小平市にある「鷹の台キャンパス」で、3〜4年次には新しく設立される都心の「市ヶ谷キャンパス」で学生生活を送る。

鷹の台キャンパスは、ファインアートからデザイン分野まで、ものづくりの若い担い手が日々、制作にはげむ場所である。いっぽう、市ヶ谷キャンパスは、企業などとの共同プロジェクトをベースに、美大と社会の接点が探られる実験の場だ。このふたつの環境を経験することで、これからの時代に求められる新しい能力が育まれることが期待されている。

では、具体的に、それぞれのキャンパスではどのような学びが展開されるのか。

鷹の台キャンパスで特徴的なのは、一週間を通して、毎日2コマの「造形実習&演習」が行われることだ。ここで学生は、キャンパス内のアトリエや工房を使い、絵画や彫刻、映像など、造形の基礎に触れていく。

ただし、こうした授業の目的は、プロのアーティストを育てることではない。ここで目指されているのは、自分の手や目を使って何かを作ることを通して、ある物事を観察したり、そこから新たな視点を引き出す力を育むことだ。また、講評の機会に他者の作品を分析し、批評することで、自分の思考を整理し、言語化する能力も磨いていく。

このほかにも、鷹の台キャンパスでは、情報を順序立てて伝える能力を育む「構成演習」や「English Communication」、物事を調べて深く理解する術を学ぶ「フィールドリサーチ」、現在の社会を長い時間軸で捉える「現代社会産業論」、クリエイティブイノベーション(CI)の基礎を学ぶ「CI概論」や「CI基礎実習」などが開かれる。

新学科のカリキュラム②:創造性を社会で活かす方法を学ぶ3〜4年次

こうしてものづくりの空気や学科の基礎を学んだ学生は、つづく市ヶ谷キャンバスで、1〜2年次に育んだ「創造的思考力」の可能性を実社会で応用するための具体的な方法を学ぶ。ここでは、目指すべき「ビジョン」の描き方や、そのために必要とされる「イノベーション」のあり方についての、実践的な学びが展開される。

3年次からはカリキュラムに、「クリエイティブビジネス」、「クリエイティブヒューマンバリュー」、「クリエイティブテクノロジー」という三つの領域が設けられる。学生は必修科目としてそれぞれの領域の「概論」を学び、さらに各人の関心に従って、より専門性を深めていく「論」や「演習」を選択する。もちろん、複数の領域を横断的に学ぶことも可能である。

こうした実践の中心となるカリキュラムが、「産学プロジェクト実践演習」だ。ここでは都心の立地を生かし、提携企業や自治体との共同プロジェクトが行われる。ほかにも市ヶ谷キャンパスでは、企画や構想を具体化する力を身に付ける「CI演習」や、国際的な発信力を磨くための「International Communication」などが開かれる。

以上が各キャンパスで行われるカリキュラムの概要だが、もうひとつ、新学科で特徴的なことは、1〜2年次と3〜4年次では一年間の区分けが異なることである。

1〜2年次は、従来と同様、夏休みを挟んだ前期・後期のセメスター制だ。対する3〜4年次は、年間のカリキュラムを2カ月ごとに四分割する「クォーター制」となる。新学科では、このうち6月と7月にあたる「第2クォーター」の講義は開かれない。これは、学生それぞれの状況に応じて、夏休みと連続するこの期間を、外部の環境に触れる「国内フィールド演習」や「海外語学演習」、「インターンシップ演習」などに当てやすくするためだ。

さらに市ヶ谷キャンパスには、研究過程で生み出されたアイデアを社会に問う「プロトタイピングショップ」などが入ることが伝えられていたが、この日のガイダンスでは、企業と共同で運営する「プロジェクトコワーキング」スペースの設置も発表された。

実技の能力を問わない、新学科の多様な入試制度

次に、クリエイティブイノベーション学科や、新学部「造形構想学部」(クリエイティブイノベーション学科と映像学科が含まれる)の入試制度を見ていこう。

今回、新たに設立された造形構想学部の入試は、大きく以下の二つに分かれる。
・一般入試
・総合入試(いわゆる推薦入試にあたる)

この両方に共通する、新学部試験の最大のポイントは、従来のムサビで行われてきた実技試験を課さない、新たな入試制度を導入したことだ。また、学科試験では、文系から理系まで幅広い科目が選択可能になった。言い換えれば、造形能力の有無に関わらず、それぞれの受験生の得意科目によるムサビへの受験が可能になった。

一般入試

さらに細かく見ていこう。「一般入試」には、「学部統一入試」と「学科別入試」の二つがある。

学部統一入試とは、クリエイティブイノベーション学科と映像学科の「二学科共通統一試験」のことだ。ここでは、一度の受験で上記の二学科が併願できる。また、造形構想学部と従来からある「造形学部」の試験を併願することもできる。

試験内容としては、国語、英語、数学のうちから得意な二科目あるいは三科目を選択し、点数の高い二科目の結果で合否が判定される。なお、この学部統一入試では、ムサビで初となる地方入試(会場:大阪)も実施される。

いっぽう、クリエイティブイノベーション学科が独自に行う学科別入試は、「一般方式」、「センター方式」、「外国人留学生特別方式」の三方式に分かれて行われる。

一般方式とは、文系と理系を含む五科目のうちから、必須の英語を含めた三科目の受験を通して行われる方式である。

つづくセンター方式は、大学入試センター試験の幅広い指定科目から、必須科目の英語に選択科目二つを加えた「3教科型」か、選択科目四つを加えた「5教科型」を選んで行われる方式だ。このセンター方式と一般方式は、ともに併願が可能である。

そして、最後の外国人留学生特別方式とは、出願資格であるEJUまたはJLPTの結果に加えて、書類審査、面接、小論文を通して行われる留学生対象の方式だ。

ちなみに、学部統一入試と学科別入試ともに、一般入試の学科試験はすべてマークシート方式で行われる。

総合入試

他方、いわゆる推薦枠にあたる「総合入試」には、前期に行われる「構想力重視方式」と、後期に行われる「学力重視方式」の二つがある。

構想力重視方式は、これまでの課外活動や受賞歴など、人にはない魅力や能力のアピールを通して、企画力や課題解決力、プレゼンテーション能力などを見ていく方式だ。

プロセスとしては、一次選考で1200字前後の学修計画書(テーマ「あなたの将来の目標とその理由、そのために大学4年間で学びたい事について」)の提出が求められ、その合格者が二次選考で構想力テストと面接を受ける。構想力テストは、過去記事でも紹介したオープンキャンパス時の構想力ワークショップのような、アイデアを測る内容となる。

もうひとつの学力重視方式は、得意科目の学力を重視する方式で、「英語力重視型」と「数学力重視型」の二つに分かれる。

英語力重視型では、学修計画書の提出のほか、小論文、日本語での面接、TOEICや英検など英語の外部検定の結果の提出が求められる。いっぽう、数学力重視型では、同じく学修計画書の提出のほか、記述式の数学の試験と面接が行われる。

以上が新学部および新学科の入試制度の大枠だが、各入試や方式によって、募集時期や募集人数、学科試験の対象となる科目が細かく異なることに注意したい。それらの詳細については、当サイト内にある「入試情報」のページおよび「募集要項」を参考にしていただきたい。

参加者の質問に教授陣が回答。受験生の関心とは?

さて、今回のガイダンスでは、カリキュラムと入試制度の説明のほかに、新学科設立の背景に関する説明や質疑応答が行われた。高校生から浪人生、大学生、保護者も含む計39名の多様な参加者からは、質疑応答やガイダンス終了後の会場で、それぞれの関心や疑問の声が聞かれた。最後に、その一部を紹介していこう。

質疑応答には、新学科から篠原規行教授、井口博美教授、荒川歩准教授が登場した。

最初に手を挙げた高校生からは、「IoTなどテクノロジー分野については、どのようなことが学べるのか?」との質問があった。これに対して井口は、「テクノロジーのあり方は日々更新されている。そうした最新の知識を学ぶため、新学科ではテクノロジー分野の現場で活躍する方を積極的に講師として招いていく」と答えた。いっぽう、「新学科において重要なのは、そうした技術をいかに人や社会の未来のために活かすかだ」とも話した。

新学科に、一見異質とも思える荒川准教授という心理学の専門家がいることに興味を持った高校生からは、「心理学が商品の開発とどう関係するのか?」との質問が。これに対して荒川は、「商品やサービスの開発では、表面的なことだけではなく、その背後にある人の欲求をよく理解する必要がある。たとえば、『家族といたい』などの人の行動の動機を考えるうえで、心理学のアプローチは有効になる」との考えを示した。

また、ガイダンス後の会場では、参加者の個々の思いを聞くこともできた。

心理学についての質問をした高校三年の男性は、「絵が好きだが、従来の美大のような専門大学に行くことには、潰しの効かなさという不安があった」と語る。そこで法政大学のキャリアデザイン学部などを目指していたが、母から新学科の存在を聞き、興味を持ったという。

「今日の話を聞いて、美大がある分野だけに限定された世界ではないとわかりました。なかでも、心理学があることは興味深かったです。たしかに、価値は人間の内側から生まれるものだし、それを分析しないと社会の需要もわからない。その分析を通じて、自分の好きな芸術やデザインの分野から、社会を変えていけるのかもしれないと感じました」

いっぽう、中国から来た23歳の女性は、もともとムサビの映像学科への留学を考えていた。しかし今回、よりビジネスとの関わりが強い新学科が設立されることを知り、美大とビジネスの関係がどのようなものかを知るために、ガイダンスに参加したという。

「中国の大学では視覚伝達を学んでいましたが、経済学の講義も受講していました。経済の世界では近年、人の感情の側面が重要になると言われているんです。これまでは、個性がない製品の大量生産・大量消費でやってこられたけど、未来のマーケットでは感情的なものがより大切になると。その意味で、ビジネスとの接点を強化する新学科の存在は興味深いですし、何より、新しいことを始めようとする姿勢が好きだなと思いました」

新学科での学びのプロセスや、入試制度の幅広さを感じられた今回のガイダンス。紹介の機会を通じて、受験生のなかではさらに具体的に、新学科に向けた道や、そこでの学生生活の姿が描かれたのではないか。

こうした機会は、10月6日の「学科ガイダンス」、10月16日の「個別相談」、さらに学科ガイダンスと個別相談が同時に行われる10月27日のイベントなどで展開されていく。その詳細については、当サイトの「ニュース&イベント」欄を参照していただきたい。


文・杉原環樹 写真・デザイン・ラウンジ