クリエイティブイノベーション学科 ( CI )の5人に入試のことや、今、考えていることについて話してもらいました。
目次
●入試のこと
ーー美術大学ですが、デッサンなどの実技試験がない学科です。みなさんデッサンなどの経験はありますか?
またどのようなきっかけでこの学科を受験しようと決めましたか?
S:1~2年あります。美大の実技試験の対策をしてましたが結局受験の前に、文系に方向を変えたんです。ある時、友達の紹介で偶然この学科を聞いて受験を決めました。
ーー美大受験の対策は具体的になにをしてましたか?
S:デザイン情報学科とか多摩美術大学の情報デザイン学科の方に興味を持っていたから、その対策をしてました。日本語学校に通い始めて2年目から方向を変えて学力で大学に入ろうと思いました。
ーーKさんは?
K:私も美大予備校に1年間くらい、、1年も行ってないかな。
高校2年の終わりくらいから行き始めて、最初はデザイン情報学科とか多摩美術大学の統合デザイン学科とかを受けようと思って、一からデッサンとか色彩とかやったけど、私はデザインをバリバリやるというよりはデザインを考える側というか、企画を出す側の方が好きだなと思ったので、途中から志望学科を変更しました。
また高校の時、みんなでアイデアを出し合ってモノをつくった経験から、「創造的思考力」の楽しさと必要性を感じていて、CI学科の灰色の資料が家に届いていたのを見て、「いいやん!」と思って受験しようと思いました。
最初は総合型選抜で受けようと思ってたんですけど、指定校推薦の高校だったので、それを利用しました。
ーーTさんは、美術予備校には通ってないんですよね?どんなきっかけでこの学科に入ることを決めましたか?
T:元々は国立の理系大学を目指していて、技術と美術の中心くらいのことをやりたいと思っていました。文系と理系の二択しか選べないことに違和感を覚えていて。駅で「進路に迷った高校生はこちら」という広告を見て、「これは私のことだ」と思って受験してみようと思いました。国立大学にひとつ受かってたんですけど、アートをとるかテクノロジーをとるかって考えた結果、私はアートをとってCIに来ました。
ーー決め手は何でしたか?
T:まず東京にいたかったっていうのもあって。受かった国立大学は地方だったので。講演とかイベントなどをたくさん見たかったから東京にいたいと思ったし、色々考えて決めました。
ーーOさんはどんなきっかけでここに決めましたか?
O:もともと美大受験を考えていてムサビのオープンキャンパスに初めて中3で行きました。オープンキャンパスに参加した大学の中でいちばん楽しくて、やりたいことに近いと思いました。ただ、油絵学科とか彫刻学科のように、表現について4年間かけて学び、自分のものにするっていうことは、本当に自分のやりたいこととは少し違うのかなと思いました。例えば何か商品を新たに作るとき、モノのデザインだけでなく顧客の行き先を先読みして行動をどうデザインしていくか、つまりコトのデザインに興味があるなと思っていました。
でも、それを学ぼうと思ったら経営とかマーケティングでは足りないしアートだけでも足りないなと。中学生の時にその2つが両立した経営とアートのプログラムにニューヨークで参加したことで、どっちの領域も学びたいと思ってました。唯一それを叶えられるのがこの学科でした。
ーーMくんはどんなきっかけですか?
M:もともと美術はすごく興味あったんですけど、美術ってあんまり食べていけないイメージがあって。認知神経科学に興味があり早稲田大学人間科学部などを受けていました。そんな時にこの学科を知り、より広い分野のことを勉強したいと思っていたことと、美術がベースになっていることがいいなと思い受験しました。
ーー今回集まってくれた5人は、それぞれ九州・韓国・東京(3人)出身です。
東京出身者のひとりであるOさんは大学の近くのシェアハウスに引っ越して来たそうです。
O:家賃安いからシェアハウスに引っ越してきました。
日本人がいなくて、台湾人と南アフリカ人だからみんな英語で話してます。
ーーOさんはじゃあ英語が得意?
O:得意じゃないです。
ーーそっか、、英語力重視方式で入ってきた人は今回のインタビューにはいないかな?
数学力重視方式で入学してきたのがMくんですね。
M:数学そこまで得意ではないんですが、思ったより数学力重視方式の出願資格が私でも受験できる設定だったので受験しました。
ーーみなさん受験期の悩みや不安、期待などはありましたか?
T:新しくできたところだから前例がないので、どこがボーダーラインなのかも分からなくて。受かるのか、受からないのか分からないことが不安でした。
K:総合型選抜で入ろうとしていた時期に、地方で行われていた学科の相談会で求めている学力はどのくらいですか?と聞いたんです。その時に早慶MARCHレベルの試験が出題されると言われました。元々そんなに勉強ができるわけではなかったので不安でした。幸い、指定校推薦で決まりましたが、入学後に周りのレベルについていけるか不安でした。入ってみたらそんなことなかったですけど。
S:不安でしたね。受験する前は常に心配していました。1度受験失敗しているので今回も失敗したら、韓国に帰ろうか、専門学校に行こうかと。韓国に帰っても軍隊に入るか大学に入るかという選択肢が分かれてます。入試に失敗したら自分はどうなるんだろうと考えて不安に思っていました。日本語学校も2年しか通えないので、日本に残るのにもお金がかかるし親の負担になることも考えて悩んでいました。
ーーSくんは韓国からの留学生ですが、日本語の不安はありましたか?
S:日本語の不安はあまりなかったです。
日本語学校には中国の学生しかいなくて、私だけがずっと日本語で喋っていたので日本語でのコミュニケーション能力は他の留学生より良いと思ってました。
話すのは大丈夫なんですが、中国の学生と比べて漢字や書くことがすごく苦手なのでそこが不安でした。
ーー現在、授業で出てくる漢字や書く作業はどうしていますか?
S:日本人より3倍、4倍かかるから、時間をかけてやるしかないですね。
現代社会産業論の授業では、分厚い本を2冊読まなきゃいけなかったんですけど、難しい単語がすごく多くて。
*この分厚い本というのは、サピエンス全史(河出書房新社)のことです。
K:私たちでも難しかったよね。
S:個人的に1年かけても読み終えるには無理があるなと思って、電子本も買って時間がある時に読んだりしてました。なのでサピエンス全史は家に2冊と電子本で2冊持ってるんです。
みんな:すごい、、、
ーーMくんは受験の時に不安はありましたか?
M:元々、美大が好きだったんです。だけど選択肢には入ってなくて、オープンキャンパスは行かなかったです。「美大いいな」とは思ってたんですけど、将来に繋がらない感じがしていて、進学は考えていなかったです。美大に入ることになってからは、この学科は受験でデッサンがないから、美大っぽい授業を受けられないのではないかっていう心配はありました。「美大らしい」授業を受けたいと思っていたので。
ーー入学後の絵画や彫塑の授業に満足していますか?
M:はい。満足しています。すっごい楽しい。
ーーそれはよかったです。
Oさんは受験の時期に不安はありましたか?
O:全くなかったです。クリエイティブイノベーション学科が第一志望だったので、悩みとか不安とか一切なくて。
強いていうなら、総合型選抜の構想力テストと言われたところで、過去問は無いし映像学科の感覚テストとも違うし、どう対策すればいいんだろうなっていうのは考えてました。入試の1週間前カルチャーサイトのイベントに参加した時に、その場にいたお坊さんに入試があるんですけどって相談したら、「なんとかなるよ」ポンポンポンって木魚を叩いてくれたんです。それで大丈夫だって思いました。
ーー期待の方が大きかった?
O:そうです。これがあるからっていう期待というよりは、不安とか悩みがないってこと自体が期待でした。
ーーもともと何事もポジティブに考える方ですか?
O:いいえ、めちゃくちゃネガティブです。CI学科に入学するという事にだけは、自信がありました。
●入学してからのこと
ーー入学してからのことを伺いたいと思います。
印象に残っている・自分の力になったと感じる授業はなんですか?
M:造形実習Ⅰ(共通絵画)の授業ですね。物の見方がすごく変わったので。アート系の先生と話をできたのが良かったなと。絵を描く事に苦手意識がありましたが楽しくなりました。
ーーアート系の先生とはどういった話をしました?
M:物の見方の話ですね。最初見たときはただの石なんですけど、ちゃんと見ていくと情報量がすごく詰まっていて。
ーーTさんはどの授業が印象に残ってますか?
T:CI概論と造形演習Ⅰ(デザインリテラシー)ですね。デザインリテラシーではIllustratorの使い方も学べたし、いちばん力がついたと思うんです。CI概論では、デザインのことや美術関連について全然知識がなかったんですけど、インフォメーションアーキテクトの先生などの話を聞いて基礎的なことが学べました。
ーーみなさんデザインリテラシーは楽しかったですか?
M:楽しかったです。
O:Illustratorの使い方などは難しかったです。絵の具を使ったり文字を手作業で配置する作業が楽しかったです。パソコンでの作業が苦手だと分かったので勉強していかなきゃなと思いました。
S:苦手でした。細かい作業が苦手なので色を塗るときには手が震えて、なんで自分は綺麗に描けないんだろうとか、配置が出来ないんだろうとか思いました。パソコンの作業は楽しかったです。
ーーKさんはIllustratorと手作業ではどっちが楽しかったですか?
K:Illustratorですかね。Illustratorで先生たちの似顔絵を描いたんです。これを表紙にしようと思って。でも先生に「こんなに顔疲れてないよ~」って言われちゃいました。
O:これくらい出来たら楽しいだろうな~
ーー媚びてないところがいいですね。
Sくんはどの授業が印象に残ってます?
S:造形実習Ⅱ(共通彫塑)がすごく楽しかったです。彫塑をやっている間に、人間関係が作れました。
O:彫塑は合宿みたいだったよね。
S:みんな、やろう!って感じだったので楽しかったです。
ーー入学後はずっと絵画や彫塑の授業で手を動かしていますよね。
夏休みには自画像と自宅の部屋を描くという自由課題が出ましたがどうでした?
O:自画像を描くことが課題だったけど、ずっと他人の顔を描いていました。他人の顔を描くことで、他者との距離感とか、空間とかを自分で言語化する機会が出来たから、それを通して自分なりの人間関係の正解を出せました。
その影響で、この時代にSNS全部消したんですよ。LINEもTwitterも全部消して。それで自分の中で自己効力感ができて、確信のある自信みたいなものがついたんです。今ある人間関係とか、これからの人との関わり方とか、現時点でのモヤモヤしていたことが自分なりに解決できて、よい機会でした。
M:自画像が地獄でした。
(全員納得)
T:描き方が分からないのでどうしよう、、、みたいな
ーー自画像はどれくらい時間かけました?
M:結構かけましたね。
何枚描いてもうまくいかないので、10時間くらい描いてました。
K:申し訳ないんですけど、正直にいうと全く時間かけてなくて。帰省してたらずっとゴロゴロしちゃって(Kさんは九州出身者)、残り1日くらいでやっちゃいました。
しかも、課題には鉛筆と何かで描きなさいって書いてあったんですけど、鉛筆使わずに太マッキーで一気に描きました。部屋を描く課題では、北九州のビバリーヒルズって呼ばれてるところがあって、そこの豪邸シリーズっていうのを描いたんです、、、来年は頑張ろうと思ってます。
S:私は描いてもいないです、、、はい。提出もしてないし、描いてもいないです。国に帰ったらすごくダラダラしちゃって。1ヶ月後でも出そうと今は思ってます。遅くないかなと。
ーー遅いです!でも、自由課題なので遅くなってもいいから出して欲しいです。
みなさん現在興味のある分野はなんですか?
M:格好つけちゃったんですけど、「観察と抽出」です。造形実習Ⅰ(共通絵画)で本当に観察ってすごいなと思ったんです。今は観察したものを、うまく作品にしたいと考えてます。頭で考えるとうまくいかないので、ひたすら手を動かす感じですね。
ーーTさんは舞台美術に興味がある?
T:個人的に活動しているダンスと美術を繋げたいなと思っていて、今はまだ興味があるっていう段階なんですけど。受験の頃から舞台美術に関しては結構考えていて、他の学科の授業にも興味があります。
ーーKさんは何に興味がありますか?
K:私はもともと「災害とデザイン」にすごく興味があって。高校1年生の時から2年間、九州大学芸術工学部のプロジェクトに参加していたんです。熊本の地震があって、その時に子供×災害×デザインっていうテーマで2年間でモノを作りました。鏡とレーザーポインターを使ったサバイバルゲームを提案して、避難所の狭いスペースでも遊べるものを作ったんです。その経験から、クリエイティブイノベーション学科が掲げている「創造的思考力」に興味を持って入学したので、「災害とデザイン」を学びたいと思っています。
他には、他大学の友人と何か共同制作のようなことができないかなと思っています。旅行誌みたいなものではなく、出身地をアピールできるものを作りたいと考えています。
ーー考えるのが好きですか?
K:考えるのが好きで、アイデアを出すのが好きです。ただ、今考えていることをカタチに出来る様になりたいから、もっと絵が描ければなとも思っています。
ーーSくんはいま興味のあることはなんですか?
S:色々なものが好きで、よく変わります。ゲーム好きな時もあるし、映画とか絵を描くことが好きだった時もあります。ずっと変わっていて色々な分野に興味を持っていますが、深く興味を持つことはあまりないですね。最近は映画です。同じ映画を何回も見ることがあるのですが、3、4回見たら映画がもっと面白くなるんです。気付いてなかった部分とか、台詞とかが分かってきてすごく良くできた映画だなと思うことがあります。
ーーOさんは興味のある分野は?
O:今は性に関する分野に興味があって。きっかけが高校2年生の時に見た虹色のプリッツのロゴです。軽い気持ちでなんで虹色なの?って親に聞いたのをきっかけに、LGBTとかの言葉を知っていきました。AO入試専門の塾に通っていたから、他の人がアート×貧困、とかアート×法律とかテーマが決まっている中で、私はアートと掛け合わせる「何か」が見つかっていなかったんです。そんな時に、性っていうどんな人にとっても身近な問題で、いちばん関心のある分野だなと思って。そこからフェミニズムを扱ったイベントとかでZINEを出して言語化していくうちにアートと掛け合わせながら学んでいきました。
●今後のこと
ーー今後のことについて聞いていきたいと思います。
この教授のゼミに入りたいとか既に考えてる人はいますか?
O:まだ先生たちの特徴を掴めていないのはあるけど、井口先生は批評してくれるので、自分の中に伸びしろがあるなと思えます。都市の課題(CI 基礎実習)のときも、井口先生のコメントがいちばん厳しくて、それがいい厳しさだなと感じました。もともとデザイン情報学科にも興味があったのでそういう部分もいいなと思っています。
T:私は自分の考え方と合っているなという部分で長谷川先生かな。
K:私も井口先生です。講評をしてくれたときも話が上手いし共感ができて、違う目線から指摘をしてくれるので、そういうことか!と納得することができて興味があります。出身も福岡だし。
ーーSくんは?
S:私は荒川先生です。自分の中で第一印象がすごく良くて、入試のために相談をした時も丁寧に相談にのってくれたので。
ーーMくんはどうですか?
M:僕は認知神経科学をやってみたかったので、荒川先生とか。あとは、造形教育の先生の方が波長が合うので篠原先生のゼミにも興味があります。鷹の台が好きなので、鷹の台によくいる荒川先生、井口先生、篠原先生から学べる事に今は興味があります。
O:鷹の台2年だけって短いよね。
M:短い!足りない!
ーーもっとこっちで学びたい?
O:全然足りないです2年間じゃ!鷹の台3年間で市ヶ谷1年間でもいいと思ってます。
M:鷹の台にはいろんな人が集まってるから、刺激がとてもあるんですよ。他学科の学生が展示とかしているし。市ヶ谷は同じことを考えてる人しかいなくなっちゃうかなと思ってます。あと、ビルのキャンパスが苦手で、鷹の台の芝生が好きです。
ーー学生は市ヶ谷に行くのを楽しみにしているんだと思ってました。
Kさんは市ヶ谷楽しみですか?
K:サークルに参加出来なくなっちゃうのが困ります。市ヶ谷から鷹の台に戻ってこなきゃいけないから参加できる日が減りそう。
S:私はどっちでもいいと思います。入学前のガイダンスに参加したとき、教授たちが市ヶ谷キャンパスはみんなで作っていくキャンパスですって言ってたので、それも楽しそうだなと思いますし、メリット・デメリットは両方あると思っています。市ヶ谷に行くと鷹の台にしかない施設が使えなくなるけど、市ヶ谷だからこそできることがあるんじゃないかなと思っています。
ーー市ヶ谷には様々な経験を持っている大学院生がいるので、そのような部分での刺激はありそうですよね。
●編集後記
絵を描いたことがない美大生たちは、どんな事を考えてこの学科に入ってきて、今何を感じているんだろうと思いこのインタビューを始めました。話を聞いていて感じたのは、”考える”ということが得意な学生が多いということです。
”考える”ということは誰にでもできることのようですが、実は難しいと思っています。世の中の当たり前に流されて、考えることを放棄する方が簡単だからです。しかし、インタビューに参加してくれた学生たちは、授業課題はもちろん、生活の中で”考える”という行為に、自然に取り組んでいます。
このインタビューは9月に行いました。つまり、入学してからまだ半年しか経っていません。学生たちとともにクリエイティブイノベーション学科自体がどのように成長をしていくのかが楽しみです。