安井彩乃(武蔵野美術大学大学院 造形構想研究科 博士後期課程)

 

● 進学先
武蔵野美術大学大学院 造形構想研究科 博士後期課程

入学前から絵を描くことに興味があり、特に熱心に取り組んでいたのがドローイングでした。自らが描いたイメージに働きかけられ、思わず筆が動いてしまう体験を何度もする中で、「人と絵画(イメージ)は相互作用がある、どうにか現象として掴みたい」と思いつつ、絵画作品を発表するだけでは表現しきれませんでした。そんななか、転換点になったのが学部3年次のクリエイティブテクノロジー演習です。スキルの習得ではなく、テクノロジーをどう創造的に用いて、実際の環境に、作品や体験を生み出せるかということに主眼を置いた授業で、「市ヶ谷キャンパス」というテーマに基づいて作品を制作しました。

「TRIO」(グループで制作)
市ヶ谷キャンパスのエレベーターに人が乗ると、一人乗るごとに音色が重なり、三人乗ると音楽が完成するインタラクティブアート

コンピュータを用いることで、絵画とは異なり、人に参加してもらい、その振る舞いにリアルタイムに呼応する作品をつくることができました。また、作品の制作を通して、テクノロジーで人とイメージの相互作用を生み出す手法を得ました。授業でのこの作品をきっかけに、コンピュータと人がお互いの振る舞いによって変化する、協調的なインタラクションを研究テーマに決めました。

修士課程でも同様の研究テーマに取り組んでいます。どうしても学部の研究だけですと、長期的な目標を掲げることが難しくなると思いますが、私の場合は「学部・修士5年一貫プログラム」(※1)のカリキュラムでしたので、学部からシームレスに研究を続け、展開させることが可能でした。現在はAI技術を用いてリアルタイムに映像エージェントを生成し、その映像エージェントの振る舞いと、人の振る舞いが協調する作品を『コーポレイティブアート』と名づけ、研究しています。入学当初は、プログラミングへの興味は全くなかった状態でしたので、面白い展開だったなと自分自身でも感じています(笑)。

大学院は学生の幅が広くて、社会人の方もとても多いです。バックグラウンドや現在地が違うからこそ、グループワークなどでも、異なる視点からの議論が活発に行われ、自分がフレームにはめていた考え方が、拡張されるような感覚がありました。社会人の方にとっても、学部から修士に進学した学生の素朴な視点を興味深く思ってくださっています。様々な立場からお互いが学び合っているからこそ、クリエイティブリーダーシップコースは成立していると思います。

 

修士研究「映像エージェントのアフォーダンスのデザイン─協調的インタラクションを目指して─」本研究では、独自のアルゴリズムにより、人の振る舞いに応じてリアルタイムに映像エージェントを生成するシステムを開発した。実験により、映像エージェントの振る舞いがアフォーダンスとなり、人との協調的な振る舞いが生まれることを確認した。

『コーポレイティブアート』の研究は、学部生の頃から学会でも発表を行なっています。これまでのヒューマン・コンピュータ・インタラクションの研究領域では見出されてこなかった、美術領域からの新しいアプローチを評価していただいています。また、武蔵美での研究は、その研究プロセスにも特徴があります。通常の研究プロセスでは、あらかじめ定めた目標を達成するために研究を行うことが多いですが、クリエイティブリーダーシップコースでは実際に手を動かす中で偶然生まれた発見を重要視しています。その偶然の発見から目標自体を更新し、研究や制作を発展させることを推奨する文化があります。これは造形教育の最前線を担い、手を動かすプロセスそのものが持つ働きを大切にしてきた武蔵美だからこそ育まれた文化だと感じています。
これからの研究でも積極的に制作を行い、美術大学での研究としてのユニークさを持ちながらも、美術領域を超えた研究へと発展させていきたいです。

大学院進学を考えている人に一言

研究や制作のビジョンを見出すための最初のステップは、 知識や経験を多く得ることだと考えています。また、個人の中で生まれたビジョンを他の人と共有し、育むことがとても大切だと感じています。
その環境を与えてくれるのが、クリエイティブリーダーシップコースなのではないでしょうか。

※1:学部・修士5年一貫プログラム
https://www.musabi.ac.jp/course/graduate-ctsi/master/cl/integrated_program/